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東京地方裁判所 平成6年(ワ)16543号 判決

原告

大久保善平

右訴訟代理人弁護士

佐藤正俊

米川勇

小川義龍

被告

日南自動車株式会社

右代表者代表取締役

誉田直彦

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の各建物及び各工作物を収去し、同目録(二)記載の土地を明け渡せ。

二  被告は原告に対し、平成六年九月一日から右明渡済みまで一か月金二四万円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は被告に対し、昭和四七年九月一日、別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件土地」という。)を、期間を同日から二年間、賃料を月額金一〇万八八〇〇円との約定で賃貸し、右契約に基づき本件土地を引き渡した。

2  原告は被告との間で、契約期間の満了の都度、賃料等について協議の上、期間を二年間とする契約を改めて締結するという形式で本件土地の賃貸借契約を継続し、平成五年四月二二日、原告は被告に対し、本件土地を、期間を平成四年六月一日から平成六年八月三一日まで、賃料を月額金二四万円として賃貸借契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

3  被告は、本件土地上に、別紙物件目録(一)記載の各建物及び各工作物(以下「本件建物等」という。)を設置した。

4  平成六年九月一日以降の本件土地の相当賃料額は、一か月金二四万円である。

よって、原告は被告に対し、賃貸借契約の終了により、本件建物等の収去と本件土地の明渡並びに賃貸借契約終了の日の翌日である平成六年九月一日から右明渡済みまで一か月金二四万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2  同4の事実は否認する。

三  抗弁

1  建物所有目的

原告と被告とは、昭和四七年九月一日、本件土地の賃貸借契約を締結するに際し、建物所有を目的とするとの合意をした。

2  借地権の時効取得

(一) 被告は原告から、昭和四七年九月一日、本件土地を、建物所有目的で、期間を同日から二年間として賃借して引渡しを受け、以後、期間を二年間とする本件土地の賃貸借契約を継続し、右賃貸借契約に基づき本件土地を占有し、その間原告に約定の賃料を支払い続けた。

そこで、被告は原告に対し、昭和五七年九月一日ないし平成四年九月一日の経過により、本件土地につき建物所有を目的とする借地権を時効取得した。

(二) 被告は原告に対し、平成七年六月一六日の本件口頭弁論期日において、右取得時効を援用する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2、(一)の各事実は否認する。

五  再抗弁(抗弁2につき)

被告は原告との間で、二年毎に本件土地の賃貸借契約を更新しており、その都度、被告は、本件土地の賃貸借契約が建物所有目的でないことを承認した。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁の事実は否認する。

第三  証拠

証拠は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証の一一及び弁論の全趣旨によれば、請求原因4の事実が認められる。

二  抗弁1(建物所有目的)について

1  前掲甲第一号証の一一、成立に争いのない甲第一号証の一ないし一〇、第四号証、乙第五号証、本件土地付近を撮影した写真であることに争いのない甲第二号証、本件土地付近を撮影した写真であることに争いがなく、被告代表者尋問の結果により被告主張の日に撮影したことが認められる乙第一の一ないし一一、第四号証、弁論の全趣旨により被告主張の日に本件建物を撮影した写真であると認められる乙第七号証、証人和田義盛の証言及び被告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。すなわち、

(一)  被告は、中古自動車の販売等を業とする株式会社であるが、昭和四七年八月ころ、中古自動車の展示販売用地を探しており、不動産仲介業者である訴外有限会社平楽商事(以下「平楽商事」という。)に仲介を依頼したこと、平楽商事は被告に対し、かつて駐車場として賃貸されていた本件土地を斡旋し、原告、被告代表者及び平楽商事の担当者が協議の上、昭和四七年九月一日、原告は被告に対し、本件土地を中古自動車展示販売用地として、右賃貸期間を二年間に限り賃貸することとしたこと、その際、被告は原告に対し、本件土地上に中古自動車を販売するための事務所を建てたい旨申し入れたところ、原告は、すぐに取り壊せるようなプレハブ造りの簡単な仮設のものであることを条件として事務所の設置を承諾したこと、そして、同日取り交わされた土地賃貸借契約書(甲第一号証の一)において、土地の使用目的につき、「普通建物所有」との不動文字を抹消して「中古車販売」と記載し、また、特約条項として、「本物件上に双方合意の上事務所用の仮設建物の構築を認めるも保存登記をなさぬ事とする。」と記載して、右の趣旨を明らかにしたこと、また、賃料は一時貸しの地代相場に沿って決められ、敷金、権利金等の授受はされなかったこと、

(二)  原告は被告との間で、二年毎に契約を締結し、平成六年八月三一日まで本件土地の賃貸借契約を継続してきたが、昭和四九年九月一日の更新時からは、「土地の一時使用賃貸借契約書」の用紙を用いて契約書を作成し、また、昭和四七年九月一日の契約時と同趣旨の使用目的及び特約条項を記載して、本件土地の利用目的が中古自動車展示販売であるとの趣旨を明らかにしてきたこと、

(三)  被告は、昭和四七年九月一日以降、本件土地を中古自動車の展示販売場及び整備工場として使用していること、

(四)  被告は、本件土地の引渡しを受けた後、本件土地上に事務所、工場等の本件建物等を建築したこと、右事務所はプレハブ構造でコンクリートブロックの上に建てられ、工期が約一か月のものであり、また、右工場はトタン張りで、約一〇個のボルトを使用して、従前から設置されていたコンクリートの土台にとめられており、工期が約半月のものであったこと、これらはいずれも解体が容易な簡易な建物であること、右事務所は、事前に原告の承諾を得て建てられたが、その余の建物等を建設するについては、事前に原告の承諾を得ていなかったこと、本件建物等の敷地面積は本件土地の面積の約7.2パーセントを占めているにすぎないこと、

以上のとおり認められる。

被告は、被告代表者尋問において、本件土地の賃貸借は建物所有目的であったが、本件土地の地目が田であり、また、土地区画整理法による事業が未完成であったため一時貸借の形式にされたと供述するが、前掲各証拠に照らして措信できない。

また、被告は、被告代表者尋問において、本件土地の賃貸借において敷金、権利金の授受がされなかったのは、被告が、本件土地の改良工事をしたためであると供述するが、前掲各証拠によれば、本件土地は、更地の現況で賃貸されたもので、原告は、被告がその土地をその賃貸目的に沿うように整備することを承諾したものの、これと敷金、権利金の授受とを関連させて交渉等をしたことはないことが認められるので、被告代表者の右供述は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」とは、借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を築造し、これを所有することにある場合を指し、借地人がその地上に建物を築造し、所有しようとする場合であっても、それが借地使用の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは、これに当たらないものというべきところ、右に認定した事実によれば、本件土地の賃貸借契約の目的は中古自動車展示販売の用地とされ、右契約上、事務所用の仮設建物の構築だけが認められ、敷金、権利金の授受はなかったものであり、また、本件土地上の本件建物等は展示販売場用の事務所と整備工場等であるところ、これらは解体が容易な簡易な建物であること、本件建物等の敷地面積は本件土地の面積の極一部を占めるにすぎないことが認められるから、本件土地の賃貸借契約は、本件土地を中古自動車展示販売の用地として使用することを主たる目的として締結されたもので、建物の所有は従たる目的にすぎないものというべきである。

これに対し、被告は、被告が本件土地上に整備工場を建築することを原告が了解していたと主張し、被告代表者尋問においてその旨供述するが、仮に、そのような事実があったとしても、前記認定の本件土地の賃貸借の経緯及び本件土地の使用状況に照らすと、それは本来の賃貸借の目的である中古自動車展示販売目的に付随する仮設建物の築造を容認したというにすぎず、これをもって、本件土地の賃貸借の主たる目的が建物所有目的にあったものということはできない。

3  そこで、抗弁1は採用できない。

三  抗弁2(借地権の時効取得)について

被告は、本件土地につき、建物所有を目的とする借地権を時効取得したと主張する。ところで、他人の土地の継続的な用益という外形的な事実が存し、これが賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときに賃借権を時効取得することができ、建物所有を目的とする借地権の時効取得をするについても、賃借権の目的が建物所有目的であることが、その外形的な事実から客観的に表現されていることを要するところ、これを本件についてみるに、本件土地の賃貸借契約の目的は中古自動車展示販売の用地であり、本件土地の使用状況等に照らしても、本件土地の賃貸借契約の主たる目的は中古自動車展示販売の用地であって、建物の所有は従たる目的にすぎないものであることは前記認定のとおりであるから、被告の本件土地の占有使用の継続により、建物所有を目的とする借地権を時効取得したものということはできない。

そこで、抗弁2は採用できない。

四  よって、原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官金子順一)

別紙物件目録〈省略〉

別紙図面〈省略〉

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